教えて!AGEのこと

第15回 大柳珠美先生インタビュー
AGEを防ぐには、まず日常の食の見直しから

海野由利子氏(インタビュー・文)

 
大柳珠美さん

管理栄養士 一般社団法人オーソモレキュラーjp理事

糖質制限理論と栄養療法を用いた栄養指導を専門に活動。糖尿病、肥満など生活習慣病全般に対し、薬に頼り過ぎない治療をサポート。美味しく続けやすい糖質制限食の情報を発信している。「糖質制限 その食べ方では痩せません」(光文社新書)など、著書・共著多数




AGEを防ぐには、まず日常の食の見直しから

 体内の余剰な糖がタンパク質と結びついてできるのがAGE。糖質のよくない面が知られるにつれて“糖質制限”や“低糖質食”が注目されていますが、多くの方が気にしているのは糖質の量ばかりではないですか? 糖質はコメや麦などの穀物以外にも野菜など、さまざまな食材に含まれていますから「AGEを防ぐために糖質を摂らない」という考えだと、日常の食事・食材の選択肢が狭まってしまいます。
 問題は、糖化が起こるほどの糖質の摂り方。糖質をゼロに近づけることよりも、食後高血糖(血糖値スパイク)が起きるような量と食べ方をしないことです。また、糖化する前にエネルギーとして使いきってしまえばいい、という考え方もありますよね。

 まずおすすめしたいのは、ジャンクな糖質食品を避けること。私が“ジャンク”と考えるのは、精製・加工された糖(白糖、グラニュー糖、粉糖など)と油が一緒になって時間が経ったもの。たとえば、作りたてでない菓子パンとかドーナツ。カップ麺、カップ焼きそば、冷凍チャーハンなど。糖質量が多い上に酸化した油も一緒になっている、最もよくない糖質食品だと思います。 パンや美味しいお菓子を楽しむなら、質の良い小麦粉とバターとか、酸化しにくいラードやココナッツオイルを使って作られたものをその当日のうちに食べる、というのがいいですね。そういう食品は大量生産で安価には作れないかもしれませんが。まずは糖化のサイエンスを知った上で、どう日常の食卓に生かしていくのかが大切です。食って毎日のことで一生続きますから、「朝は菓子パン、昼はカップ麺、夜は冷凍チャーハン」という食生活を続けるのか、「たまに、あのジャンクな味が食べたくなるんだよね」という程度の量に抑えるのか。それによってジャンクな糖質の影響や、体の抗酸化力は大きく変わります。

“ご飯”は量と食べ方がポイント

 近年、避けられがちな糖質ですが、たんぱく質や脂質に比べれば手っ取り早く使えるエネルギー源ですから、成長期の子供やアスリート、肥満でない人やこれから肉体労働をする、山に登る、走る、という人には有効な栄養素です。私も黒米や雑穀を混ぜたご飯を少量とか、小さなおにぎりは食べています。炊き立てのを、いったん冷ましてから。なぜそうするかというと、コメに含まれているでんぷんの構造が、レジスタントスターチというものに変わるからです。消化されにくい食物繊維に変わるので、血糖値を上げにくくなるし吸収されにくくなるんです。冷蔵庫でしっかり冷やしてから常温に戻すとさらに良いですね。炊き立てごはんのおにぎりと、冷めてから食べるおにぎりとでは、コメのでんぷんの構造と吸収され方が違うので、糖質を控えたい人はご参考に。ただ、今のお米は昔の米とは違うんです。コメに含まれるでんぷんはアミロースとアミロペクチンの2種類で、アミロペクチン100%なのがモチ米で血糖値が上がりやすく、アミロースが多いほどタイ米のようなバサッとした食味に近くなり、血糖値が上がりにくいのです。
 戦前の日本の米は、どちらかというとアミロース系でしたが、1950年代くらいから農水省主導でコメの品種改良が進んだ結果、現在は冷めてももちもちして食べやすいアミロペクチン系の、低アミロース系の米が増えているんです。この背景には、米を炊かず、白ご飯をスーパーやコンビニで買ってくる人の増加があります。冷めたご飯は血糖値が上がりにくいのは確かですが、“冷めてももちもち”のご飯は要注意です。野菜やチキンなどのタンパク質、良質のオイル(亜麻仁油、オリーブオイル、ナッツなど)とともに食べるなど血糖の上昇を防げる食べ方をしましょう。いずれにしろ、穀物は食事のメインにしない量で、食べ方を工夫すれば食後高血糖やAGEの心配を減らすことができます。

フライパン、油による高温調理は「たまに」がいい

 調理法も重要ですね。私自身、フライパンは野菜をゆでるときに使うくらいで、炒め物や揚げ物はあまりしなくなりました。厚労省の食品安全部が高温調理によって発生するアクリルアミド(発がん性物質)についての注意喚起をしましたが、AGEは糖を高温で加熱したときにできる“コゲ”のようなものなので、調理法も糖化や酸化を起こしにくい方法を選ぶ人が増えてきましたね。油も、どんなに質がよくても高温で酸化しますから、炒め物、揚げ物の高温調理に使うのはもったいないです。
 私は蒸したりゆでたりする料理が多く、肉を焼く場合はグリルで、食べるときにオリーブオイルをかけるという、油を加熱しない食べ方をしています。揚げ物はたまに。オレイン酸リッチの菜種油を使い、食材がひたひたになるくらいの揚げ焼きにして、一回使った油は捨てます。酸化しにくい質の良い油は高価ですし、揚げ物は本来贅沢な料理だということを知っていたいですね。低価格の揚げ物は油の酸化が気になるし、コロモの糖質を考えるとAGE対策としては避けたいジャンクフードだと思います。

食を少しずつ変えれば、やがて大きな変化に

 近年は栄養の大切さが知られるようになり、医学的な研究も進んで、情報発信も増えてきました。AGEもきちんと知識を得れば、毎日の生活に生かすことができますね。コンビニでの買い物も、知識があれば選び方が変わるでしょう。菓子パンをゆで卵に変えたら、次は「ゆで卵くらい作ろう」と変わるかもしれません。カット野菜じゃなくて、キュウリを何本か買って、発酵食品である味噌をつけて食べるようになるかもしれません。味噌汁を作ればそこに海藻や野菜や肉も入れることができて、栄養豊富で食べごたえがあることに気づくかもしれません。まず、できることから始めてみましょう。朝ごはんだけ変えたとしても、それが1年365日続いたら、体にとってはやがて大きな変化となっていくはずです。


(インタビュー・文 海野由利子/写真 内堀貴嗣)