教えて!AGEのこと

第2回「AGE」がメタボやロコモによる介護原因に!!

国際医療福祉大学臨床医学研究センター 教授
山王メディカルセンター・女性医療センター長
太田 博明先生

 
健康寿命ってご存じですか?

 みなさん、「二十歳」は見た目も同じように見え、健康にも通常格差がないことは実感されていると思います。この状態は40歳くらいまで続きます。しかし、40歳以降、加齢に伴って病的な老化の程度は拡大します(図1)。なぜ多少の老化と病的な老化の差がでるのかといいますと、CML(カルボキシルメチルリジン:糖酸化生成物)などの蓄積量に個人差ができるからです。このCMLは老化現象の原因物質ともいわれ始めているAGEの1つです。

 日本人女性における生命寿命は東日本大震災が起こる前までは26年間連続世界一でした。現在、第2位で86.3歳ですが、健康寿命は73.6歳にすぎません(図2)
 ところで、健康寿命ってご存じですか?「健康上の問題で日常生活に支障のないこと」を健康寿命といいます。この生命寿命と健康寿命の差は不健康な期間そのものに相当しますが、その期間は12.68年もあります。12.68年というと女性の人生の14.7%にも相当します。つまり、人生の最後、いわゆる晩年の12.68年を健康上に問題を抱えながら過ごし、決して健やかでなく人生の終焉を迎えるわけです。

 わが国では21世紀を迎えるに当たり、国家的施策として、「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」が12年に亘り、推進されてきました。終了する2012年には次の10年に向けて、その基準方針が2012年7月見直され、「健康日本21(第2次)」が告示されました。この見直しのポイントとなるのが、「健康寿命の延伸」と「健康格差の縮小」です。先ほど、不健康期間は長いというお話をしましたが、この間、病気や加齢により、医療や介護にかかる負担が大きくなります。2030年には現在の高齢化率24%が30%を超えるといわれており、高齢化率はさらに高くなるといわれています。このような中、活力ある社会を実現するためには、生活習慣病を予防することや、社会生活に必要な機能を維持・向上することが重要となります。

男女の介護要因、男性はメタボ、女性はロコモに注意!

 要支援・要介護度別認定者数は、人口の高齢化により直近の10年間で218万人から469万人と2倍以上も増加しています。この原因として、要支援は関節疾患や骨折・転倒の運動器疾患と老衰が多く、要介護は脳血管疾患と認知症が多いことが判っています。そして、要支援とは「日常生活の能力は基本的にあるが、買い物や家事で一部支援が必要で、食事・排泄・着脱のいずれも概ね自立している」状態をいいます。一方、「要介護1」とは、「立ち上がりや歩行が不安定で、主に屋内で生活。食事・排泄・着脱のいずれも概ね自立しているが、一部支援を要する」状態を指します。さらに、「要介護2」となると、「食事・着脱は何とか自分でできるが、排泄は介護者の一部介護を要する。歩行や起き上がりも介助が必要。食事・排泄・入浴などで毎日1回の介護が必要」となります。

 このような要介護要因も男女で異なり、明らかな性差があります。そして、全要介護者のうち、男性は28.4%であるのに対し、女性は71.6%と、男性と比べ2.5倍以上も多いのです。そして、男性の要介護要因は脳卒中が32.9%と、原因疾患の1/3を占めるのに対し、女性は男性の1/2以下の15.9%に過ぎません。女性の要介護原因疾患は骨折・転倒の14.1%と関節疾患11.7%、合わせて25.8%と運動器の疾患が原因疾患のトップであり、1/4を占めています(図3)。このことから男性はメタボリックシンドローム(メタボ)に気をつけて、女性はロコモティブシンドローム(ロコモ)に気をつける必要があります。

健康長寿確保の早道は、AGEを減らすこと

 メタボは内科系8学会の合同委員会で2005年に診断基準が作成されました(表1)。ウェスト周囲径が男性では85cm以上、女性では90cm以上だと、内臓脂肪面積が100cm2以上に相当する腹腔内脂肪蓄積が示唆されます。この条件を満たした上で、高トリグリセリド血症かつ/または低HDLコレステロール血症、最高血圧かつ/または最低血圧の上昇、そして空腹時の高血糖のうち、2項目を満たせば、メタボと診断されます。

 メタボは内臓脂肪型肥満によるインスリン抵抗性が高まり、脂質代謝、糖代謝異常と高血圧を呈する、いわゆる生活習慣病です。この生活習慣病とメタボ対策の国家的施策が2008年4月から施行されています(図4)。ここで注意が必要なのは脂質異常に、総コレステロールとLDLコレステロールが含まれていない点です。糖尿病や脂質異常、高血圧が確立した状態では薬剤介入が必要なことはいうまでもありません。従って、その前の糖尿病予備群、脂質異常予備群、高血圧予備群の生活改善が必要となるわけで、特定保健指導が標的とする部分です。

 一方、ロコモとは、介護予防のために2007年に日本整形外科学会により提唱された運動器の脆弱性を表す概念です。「運動器の働きが衰え、くらしの中の自立度が低下し、介護が必要になったり、寝たきりになる可能性が高い状態」と定義されています。原因として、筋力やバランスの低下、変形性膝関節症や骨粗鬆症や変形性脊椎症といった運動器疾患が考えられます(図5)

 そして、冒頭で病的な老化にはAGEの蓄積量が関係するというお話をしましたが、男女の介護要因となるメタボとロコモにはいずれもAGEが関与しています。AGEはメタボの主因となるインスリン抵抗性にも直接関係し、糖尿病による血管症、そして男性の要介護原因の脳卒中にも関わりがあります。女性の要介護原因はロコモというお話をしましたが、AGEはロコモの原因疾患となるサルコペニア(筋肉減少症)、骨粗鬆症、変形性関節症や脊椎症とも関係します(図6)
 こうしてみますと、超高齢社会を健やかに生き抜き、健康格差を少なくするためにはAGEを減らすことが不可欠です。健康長寿を獲得する早道はAGEを減らすことにつきるかもしれません。

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